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カラム構造の極性と配置を制御する分子機構の解明
 

 多数の神経細胞が集合して形成されるカラム構造は均一な形態を示し、脳内において多数のカラム構造が規則正しく配置されます。カラム構造の形態と配置を制御する分子機構はほとんど分かっていませんが、上皮組織において平面内細胞極性(PCP)を制御する分子機構については多くの研究がなされています。平面内細胞極性と類似した機構によってカラムの形態を配置が制御される分子機構を明らかにしました。


 

上皮組織においてPCPシグナルが平面内細胞極性を制御する

 ショウジョウバエの翅の様な上皮組織において細胞は規則正しく配置され、かつ各細胞は一定の平面内細胞極性を示します。例えば、翅の細胞は常に遠位側に向いて配向します。カラム構造は多数の神経細胞から成り、脳の高次機能を実現するため、カラムの極性および配置も同様な分子機構によって制御されている可能性が考えられました。上皮組織においてはFmi, Fz, Vangといった分子によって平面内細胞極性が制御されます。


 
カラムの形態と配置はPCP因子によって制御される
 

 上皮組織においてFmiはPCP制御の中核的な役割を果たします。その局在を調べたところ、Fmiはカラムに局在し、ドーナツ状のカラム構造を可視化することが分かりました(図左、中央)。また、dishevelledやfrizzledと言ったPCP制御因子の変異体においてカラムの形態と配置に異常が生じることを見出しました(図右)。


 
Wntリガンドの濃度勾配がカラムの形態と配置を制御する
 

 一般的に、PCP因子は細胞外リガンドであるWntの濃度勾配によって制御されると言われています。ショウジョウバエは7つのWnt遺伝子を持ちますが、これらの発現パターンを調べたところ、DWnt4は脳の腹側で、DWnt10は背側で特異的に発現していることを見出しました(図左上)。また、DWnt4の変異体では脳全体に渡ってカラムの形態と配置が乱れ、DWnt10の変異体では背側においてのみ異常が見られました。DWnt4と比べるとDWnt10の作動範囲は狭いと言えます。
 また、カラムを構成する神経細胞の神経突起はカラム内で特定の方向を向くことを見出しており、この方向性の異常がPCP因子やWntの変異体において異常を生み出すと考えられます。神経細胞の極性異常が結果的にカラムの形態および配置の異常を生み出すと言えます(図右)。



 
DWnt4とDWnt10の勾配によって神経細胞とカラムの形態および極性が制御される

 カラム構造はヒトを含めたほ乳類の脳にも見られますが,これらのカラム構造に方向性が存在するかどうかは現時点では未解明です。しかし,Wntによる平面内細胞極性の制御機構はハエからヒトまで共通しているため,本研究成果によって明らかとなったメカニズムがヒトの脳のカラム構造においても適用され,ヒトの脳の形成機構において重要な役割を果たしていることは十分に考えられます。

Han, X., Wang, M., Liu, C., Trush, O., Takayama, R., Akiyama, T., Naito, T., Tomomizu, T., Imamura, K. and Sato. M.
DWnt4 and DWnt10 regulate morphogenesis and arrangement of the columnar structures through Fz2/PCP signaling in the Drosophila medulla.
Cell Reports 33, 108305 (2020).


   
  金沢大学 新学術創成研究機構