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複眼のタイリングメカニズム |
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同じ形状が隙間無く敷き詰められたタイルパターンは昆虫の複眼やハチの巣において見られ、6角形のタイルパターンが一般的です。これは、6角形タイルが構造的に頑強で、各タイルの周長が短く、空間充填度が高いという物理的特性によると考えられていました。つまり、6角形が最も省エネで優れた構造だということです。ですが、エビやロブスターの複眼は4角形タイルパターンを示します。ハエの複眼も通常は6角形タイルパターンを示しますが、ある種の変異体では4角形に変化します。これらのことから、物理的な安定性のみに従ってタイルパターンが制御されているわけではないと考えられます。本研究では物理的制約に加えて幾何学的な分割機構に従って複眼のタイルパターンが制御されることを明らかにしました。
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同じ形状が隙間無く敷き詰められたタイルパターンは人工物においては城壁やチェス盤などにおいて見られ、生物においては昆虫の複眼やハチの巣において見られます。人工物においては4角形タイルが一般的ですが、生物においては6角形タイルが一般的です。これは、6角形が構造的に頑強で、各タイルの周長が短く、空間充填度が高いという物理的特性によるものと考えられていました。
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ですが、エビやロブスターの複眼は4角形タイルパターンを示し、シャコの複眼は4角形と6角形が混在したタイルパターンから成ることが知られています。ハエの複眼も通常は6角形タイルパターンを示しますが、ある種の変異体では4角形に変化します。これらのことから、物理的な安定性のみに従って複眼のタイルパターンが制御されているわけではないと考えられます。しかし、この様なタイルパターンがどのようにして制御され、どのような機構によって6角形と4角形のパターンが切り替わるのか、全く分かっていませんでした。
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野生型のハエの複眼は6角形タイルパターンを示しますが、ある種の変異体ではこれが4角形パターンに変化します。4角形変異体では複眼の大きさが小さくなっているため、私たちは複眼の大きさそのものがタイルパターンに影響しているのではないかと考えました。
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変異体において複眼は背腹方向に小さくなっているため、小さい複眼が頭部と結合することで複眼組織が背腹方向に引っ張られ、伸長しているのではないかと考えました。実際、4角形変異体の小さい複眼において背腹方向の張力が増強し、複眼の組織が背腹方向に伸長していることを見出しました。しかし、背腹方向に引っ張っただけでは、6角形が縦長になるだけで、4角形に変化することを説明できません。
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平面上の複数の母点を中心として領域を均等に分割するボロノイ分割という幾何学的な手法が知られており、例えば小学校の学区を決める時に用いられます。母点(小学校)間を結ぶ線分に対する垂直二等分線がボロノイ境界を構成し、,これによって全ての領域(学区)が均等に分割されます。
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私たちは野生型の6角形タイルだけでなく変異体の4角形タイルもこのボロノイ分割によって正確に再現されることを見出しました。垂直二等分線を描くという幾何学的な手法が生体内で行われると考えることは無理がありますが、各母点が同心円状に成長し、円がぶつかると成長が止まって境界を形成する場合にも全く同じボロノイ境界が描かれることが知られています(前の図)。私たちは個眼を構成する細胞が風船の様に膨らむことによって同心円状の成長と同様な効果を生むことを、実験とコンピューターシミュレーションを用いて証明しました。
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この様に、個眼の配置と個眼の同心円状の成長によってタイルパターンが決定すること、個眼が縦横方向に均等に分布している場合は6角形タイルパターンを示すこと、また複眼が背腹方向に伸長して個眼の背腹方向の間隔が広がると4角形タイルパターンに変化することを示しました。遺伝子の働きと物理的制約によって細胞や組織の形態が制御されることは知られていましたが、これらに加えて幾何学的な分割機構が存在し、これらの協調的な働きによって複眼のタイルパターンが制御されることが明らかとなったのです。
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発生生物学、構成生物学、再生医療などにおいて、細胞や組織の形態を制御する機構を理解することが重要です。今回の結果は、同心円の成長に基づく幾何学的パターンが、生物のパターン形成において重要な役割を担っていることを示しています。複眼の様なタイルパターンは脳のカラム構造、肝臓の肝小葉、内耳の聴覚上皮などにおいても見られるので、同様なメカニズムが他の様々な組織においても働いていると考えられます。また、これまでにも生物の視覚系の光学的特性が人工複眼などの新技術に活用されており、本研究の成果は将来的に人工組織・人工臓器など生体工学関連の研究に応用される可能性が期待できます。
Hayashi, T., Tomomizu, T., Sushida, T., Akiyama, M., Ei, S-.I., and Sato, M.
Tiling mechanisms of the Drosophila compound eye through geometrical tessellation.
Current Biology 32, 1-9 (2022).
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