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 当研究室ではショウジョウバエの視覚中枢をモデル系として、機能的な脳がいかにして生み出されるかという問題に取り組んでいます。ショウジョウバエの脳は一般的に思われているよりも遥かに複雑で、ヒトの脳と類似した構造的な特徴を持っていますし、ショウジョウバエにおいて重要な役割を果たす遺伝子は多くの場合ヒトにおいても保存されていることが知られています。私たちはショウジョウバエ視覚中枢に注目し、その発生機構を基盤として神経回路機能・神経疾患モデルを含む総合的な神経科学を目指しています。

 

   

 私たちの研究は”発生学”という学問をベースにしています。発生学とは何かというと、ヒトやショウジョウバエのような複雑な生物がどのようにしてたった一つの受精卵からできるのか?という問いに答える学問です。そんなのは当たり前だと思われるかも知れませんが、一つの細胞が自発的に成長することによって大人になり、動いたり考えたり感じたりするようになる、というのは非常に不思議な現象です。このような発生過程はゲノムに書き込まれた遺伝情報、つまり遺伝的なプログラムによって支配されてると考えられます。発生を支配する遺伝的プログラムというのはここ20年くらいの間にずいぶん分かってきましたが、生物の組織の中でも最も複雑な”脳”の発生メカニズムについては限られたことしかわかっていません。

 

 
   
 

 脳は様々な神経活動の中枢として働いており、多くの人が脳の様々な側面に興味を持って世界中で研究しているわけですが、多様な脳機能のメカニズムを理解するにはまだまだほど遠い状況にあります。脳の機能メカニズムを理解するための何か基本原理のようなものを理解する必要があるのではないかと私は考えています。
 脳は非常に多くの神経細胞を含んでいますが、それらは非常に多様な種類からなります。そして、それぞれが固有の神経回路を形成し、固有の機能を果たします。このような神経細胞の多様性・神経回路・神経機能といった非常に重要な性質もやはり遺伝的なプログラムの支配を受けています。このうち神経細胞の多様性と神経回路は主に発生の過程で生み出され、成熟した脳内で機能を発揮することになります。ここで重要なことはこれら3つの要素は互いに無関係なわけではなくて、神経細胞の多様性によって神経回路が、神経回路によって神経機能が大きく影響されるということです。このようにして脳の機能が産み出されることになります。
脳機能の基本原理を理解するためには、脳の発生から機能の発現までを一貫して解析する必要があると考えられます。


 
   
 

 これはほ乳類の大脳皮質の発生の模式図です。最も初期には脳の内側の領域で神経細胞が生まれ、脳の外側へと移動して行き、それによって有名な大脳皮質の6層構造が形成します。この過程に関しては非常に良く研究されていますが、発生過程において生まれた一つ一つの神経細胞が最終的にどのような回路を形成し、どのような脳機能に寄与するかということまでは分かっていません。このように、脳の発生の全過程を一貫して解析することは非常に困難であると言えます。

 

 
   
 

 ではどうすれば良いのか?ショウジョウバエを用いるというのが一つの答えです。ショウジョウバエは非常に優れたモデル動物で、高度な遺伝子操作を行うことが可能です。最先端の技術を組み合わせることにより、脳の発生から機能までを一貫して解析することが可能になります。また、ショウジョウバエの脳など単純すぎると思われるかも知れませんが、層構造・カラム構造といったヒトの脳と類似した構造的特徴を示し、また高度な機能を備えています。左はショウジョウバエの脳の断面図ですが、私たちはこの中でも特に視覚中枢と呼ばれる部分に興味を持っています。右は視覚中枢の拡大図ですが、複眼において受け取られた視覚情報は視覚中枢のラミナ・メダラ・ロビュラへと伝達され、非常に複雑な情報処理を受けると考えられます。私たちは中でも特にメダラと呼ばれる一番大きな神経節に注目しています。

 

 
   
 

 ショウジョウバエは完全変態昆虫ですので幼虫・蛹・成虫へと変化して行きますが、成虫のメダラは実は幼虫期にすでに準備されています。幼虫期のメダラは成虫のそれとはかなりかたちが異なっていて、このような円状の構造をとっていますが、変態の過程を通して成熟することにより成虫のメダラとなります。実はこのメダラの発生過程というのはこれまでほとんど全くわかっていませんでした。

 

 
   
 

 私たちはこれまでの研究から幼虫期のメダラが4種の転写因子の発現によって同心円状に区画化されていることを発見しました。幼虫期のメダラは円状の構造をしていますが、それがさらに同心円状に細分化されているわけです。上の写真ではそのうちの3つのみが示されています。緑・紫・青と、それぞれの発現は隣り合っており、混じり合っていないことがわかります。従って、幼虫期のメダラはバームクーヘンのようなものだと言うことができます。
 本研究室ではこれら4種の転写因子を手がかりとして、脳機能を生み出す発生メカニズムについて研究して行きます。具体的には同心円ゾーンの形成を支配する分子機構、4種の転写因子によって規定される神経細胞の移動機構、神経回路形成機構、そして行動テストを用いた視覚認識機能解析によって発生過程から脳機能までを一貫して解析したいと考えています。より詳しい内容については左のメニューから選択してご覧下さい。